2009年幌尻山荘排泄物担ぎ下ろしに参加して

(2009年8月16日)             [山のトイレを考える会:仲俣善雄]

 日高山脈ファンクラブ主催で2005年から2014年まで10年間、延べ356名のボランティアの協力により、約4226kgの排泄物を担ぎ下ろしました。
 このまま排泄物人力運搬を続けていくことはボランティア運搬を固定化させ、山岳環境保全の対価を受益者に負担してもらう方法が検討されないことに繋がることから、10年目を区切りに終了することにしました。 2015年からは幌尻山荘の所有者である平取町で実施することになりました。

[日高山脈ファンクラブ事務局長:高橋健氏の第17回山のトイレフォーラム資料集報文より抜粋]                        


初年度2005幌尻山荘排泄物担ぎ下ろし報告

2009年幌尻山荘排泄物担ぎ下ろし報告  

2001年幌尻岳トイレ奮戦記(高橋 健) 



1.経緯と現状

 幌尻山荘の排泄物担ぎ下ろしは日高山脈ファンクラブ主催で2005年からやっている。正式には「幌尻山荘排泄物人力運搬事業」と言い、雨で中止の時もあるが年間3回実施している。日高山脈ファンクラブの熱意と行動力には頭が下がる思いだ。
 日本百名山の幌尻岳は全国の登山者が百名山巡りで訪れる。殆どの登山者は幌尻山荘で一泊。そこで問題なのはトイレだ。以前は山荘のトイレしか無かったが、あまりにも登山者が多い(年間宿泊者約3,000人)ので、屋外に簡易トイレを2基設置した。
 その屎尿の処理であるが、2005年前までは、シーズン終了後、全て山荘周辺の土の中に埋めていた。2001年北海道大学の田中あすかさんが土壌や水質汚染について調査したところ、土壌の垂直方向に汚染していることが分かった。このまま続けると地下水に汚染が広がる危険性があり、日高山脈ファンクラブ主催でウンコ下ろしを行うことになった。
 私は今まで年1回は参加するようにしている。今年は8月16日(日)に参加したので、その模様を紹介して、今後どうあるべきか自分なりに考えてみたい。

 幌尻山荘には現在、トイレが山荘内トイレ1基、山荘外にはバイオトイレ1基、簡易トイレ2基の合計4基である。バイオトイレは2007年7月から運用開始された。バイオトイレは登山者には評判がよい。しかし、トラブルも多く発生して使用禁止となる期間もあり、今は悩みの種となっている。管理人さんは夏期に常駐しているが、維持管理が大変そうだ。

 電力は水力発電でそば殻を使った固液分離便器のバイオトイレだが、尿が多く水分過多状態でバイオが適正に働かなくなったり、水力発電機が故障となったりである。そもそも2基設置する予定が、役所の予算がなく、1基の設置となった。バイオトイレは設計容量以上に利用されるオーバーユースを最も嫌う。バイオトイレの会社は、オーバーユースが原因で設計以下の利用者だとバイオは適正に働くと言うのが主張だ。それも理解できる。また、悪いことに水力発電機が山荘床下に設置された。振動音が酷く山荘宿泊者が寝むれないとの苦情となった。管理人は長期間泊まるので特に苦痛が大きい。この振動音問題は、今年(2009年)屋外に小屋を建て、そこに移設されて解決した。いくら管理人が常駐していようと、故障が発生した時に修理する業者がすぐ駆けつけることができない山奥にバイオトイレを設置したのが、そもそも無理があったかも知れない。

2.排泄物担ぎ下ろし

 8月16日、札幌の自宅を3時に出発。途中で4人を乗せ、平取町振内山の駅「ほろしり」に集合、全部で参加者は12名。山のトイレを考える会からは私を含め7名が参加した。6時40分マイクロバスで北電の取水ダムに向けて出発。取水ダムの7.5km手前が登山口で、広い駐車場と林道ゲートがあり一般登山者はここから歩くことになる。 振内から約1時間で登山口に着くと駐車場は車で満杯状態。駐車場には日高山脈ファンクラブや地元の平取山岳会の尽力(費用・稼動も全て民間)で仮設トイレが2基設置されていて、さっそくトイレの清掃と周辺のゴミ拾いを行う。トイレが綺麗になり、すっきりする。仮設トイレの横に協力金入れる鉄製の箱があり、4,575円の協力金が入っていた。トイレ汲取り料の一部に利用させていただくと言うことだった。

 再びバスに乗り込みゲートを開け取水ダムに向かう。取水ダムには、軽ワゴンで背負子と一斗缶、4リットル缶が多数運ばれていて、これを各々担いで、幌尻山荘に向かう。取水ダムから幌尻山荘までは約1時間30分、額平川を十数回渡渉しながら遡行する。雨の後だと渡渉も困難を極めるが、今回はせいぜい膝上ぐらいの水量で少なめだった。

 幌尻山荘に着き、バイオトイレや移設した水力発電、新たに設置した小屋下のプラスッチク便槽、簡易トイレなどを見学。少し早い食事を済ます。移設した水力発電機は故障修理手配中で、バイオトイレは使えなかった。今回は簡易トイレの便槽が満杯なので空にするのが目標だ。簡易トイレ2基は尿と便を分離する便器、つまり固液分離便器となっていた。尿はパイプの傾斜を利用してポリタンクに溜まるようになっていた。実際に使ってみると、便器の構造が悪いのか、きちんと分離するのが難しかった。便槽の中は尿もかなり入っていて水分が多い状態だった。

 作業はみんなで手分けして行った。一斗缶、4リットル缶にビニール袋をセットする人、便槽から汲取る人、汲取った後にビニール袋の口をしっかり閉める人などに分担して、3時間ほどで作業が終了した。分離した尿もタンクに入っており、20リットルタンクに移し、主催者の事務局長である高橋さんが担ぎ下ろした。山荘内のプラスチック便槽も固液分離便器で300リットルが2個設置されているが、今回は手つかずで、ほかに満杯の200リットル貯留用タンクが1個ある。

 今回は12人で219kg担ぎ下ろした。私はいつも一斗缶を1個、大型ザックで運んでいたが、初めて1斗缶を2個、背負子で担ぎ下ろした。24kgと重く不安だったが、額平川の推量が少なかったのと下山時間が2時間ほどなので、何とか下ろすことができた。また、若い女性登山者2名と男性登山者1名が幌尻山荘からの担ぎ下ろしに協力してくれたのは嬉しかった。

 取水ダムに着いてから高橋さんが排泄物を検量後、軽トラに全て積み、我々はバスで平取町振内鉄道公園に行った。鉄道公園内にはトイレがあり、この便槽に運んだ排泄物を入れて作業は終了となる。この作業もウンコが飛び散ることもあり大変だ。皆さん顔を背けながら糞闘?事故もなく無事、午後5時過ぎに作業が終了した。

3.今後どうあるべきか

 あと5年ほどは頑張って何とか担ぎ下ろしができそうだが、みなさん高齢化してきているので事故があったら大変です。ヘリでの搬出も検討しなければならないと思って帰ってきました。現在、宿泊代は一泊1,500円ですが、3,000円でも皆さん払ってくれるのではないかと思います。 1,500円×3,000人=450万円。これでヘリ代やトイレ維持管理費が捻出できるのではないかと思います。来年も同じように、ウンコ担ぎ下ろし作業が継続して実施されると思いますが、事故が発生しないことを祈るばかりです。

(追 記)
2009年度第1回目担ぎ下ろしは雨で中止となりましたが、その後2回担ぎ下ろしが実施されました。日高山脈ファンクラブの報告では、2005年から延べ190名のボランティアの協力により2259kgの排泄物を運搬。それ以外にも平取町役場や平取山岳会でも行っているので、人力運搬の総量は3トンを超えているとの事です。

登山口の仮設トイレ。左が協力金箱仮設トイレの清掃

さぁ、出発!黄色は200リットル箱幌尻山荘裏のバイオトイレ

左側は簡易トイレ2基簡易トイレ

簡易トイレの固液分離便器山荘下のプラスチック便槽

水力発電の小屋簡易トイレの汲取り(1)

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